column


【最近感動したもの】

ひとつめ、「ゴマアブラ」。
これは、ベース兼ボーカルの林直樹さんを中心とするバンドの名前です。
5月に、池袋の路上で演奏しているところを初めて見ました。
今年知ったバンドで、間違いなくナンバーワン。
ジャンルとしてはロックに分類してよいと思いますが、適度にメロディアスでかなりファンキー。
小難しい能書きは不要、俺たちのやりたいことはコレだ、という明確なメッセージと、それを表現するための確かな演奏テクニック。
終了後、その場で即CDを購入しました。

ふたつめ、「ずっとウソだった」。
これは、シンガーソングライター斉藤和義さんの歌のタイトルです。
8月に、YouTubeで聴きました。
失礼ながら、斉藤和義さんのことはお名前以外全く知りませんでした。
これがご自身の曲「ずっと好きだった」の替え歌だということも、後から知りました。
ゴマアブラもそうなのですが、大衆音楽というものの本質を突いている感じがします。
人間の求める真実は単純なところにあって、それを難しそうに語ることにマヤカシを感じます。

みっつめ、「最強チームの法則」。
これは、今書店に並んでいる文藝春秋10月号の特集タイトルです。
この中にある、東京消防庁ハイパーレスキュー隊の記事、大変感動しました。
爆発直後の福島第一原発に入った佐藤康雄さんの部隊は、彼の奥様がおっしゃる通り「日本の救世主」になりました。
ここでは、「強い組織とは」という視点に立って、佐藤さんご本人が書いています。
ゴマアブラや斉藤和義に共通するのは、極めて高いモチベーションで「自分の仕事」をとことんやる、ということ。
そういう人材の集合体こそ「最強チーム」であり、その延長線上に活気ある社会が作られるのだと思いました。
この記事、恐縮ながら本屋で立ち読みしたのですが、その場でボロボロと涙が出ました。
正に、今の日本に欠落している精神だと思います。

番外、中村とうようさんの自殺。
「感動したもの」の中に入れるのは不謹慎と思いつつ、「番外」として加えさせてください。
7月に柴崎の自宅マンションから飛び降りた、とのことでした。
私が中学生の頃、ロックのメディアは「ミュージック・ライフ」一色。
ある日、文字だらけの「ニュー・ミュージック・マガジン」を知って、少し大人になった気分を味わいました。
当時、大衆音楽におけるジャーナリズムを感じたのはこの人の文章だけです。
程なく渋谷陽一さんが現れて、お二人の有名な「戦い」がありました。
両者に共通するのは、音楽だけを論ずるのではなく、ミュージシャンの背後にある社会や人間を語っていたこと。
私は、ミュージック・マガジンの「とうようズ・トーク」があったからこそ、ロッキング・オンの雑誌「SIGHT」があるのだと思っています。
享年79歳。合掌。

2011/10/01 杜哲也