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【第146回/ロバート・ワイアット】

彼の創り出す音楽は、正に唯一無二の世界。
セカンド・アルバム「ロックボトム」は、私が50年近くに渡って聴き続けている愛聴盤です。

1970年前後のブリティッシュ・ロック・シーンに「サイケデリック」と呼ばれるムーブメントがありました。
その双璧が、ピンク・フロイドとソフト・マシーン。
丁度この頃にロックを聴き始めた私は、1970年代の活気溢れるロックシーンをリアルタイムで体験した幸せな世代です。

ロバート・ワイアットは、ソフト・マシーンの初代ドラマーです。
メンバーチェンジの多いバンドだったため、ワイアット自身も「ソフト・マシーン4」(1971)を最後に脱退し、すぐに結成したマッチング・モウルでも質の高い2枚のアルバムを発表しています(1972)。

ワイアットの凄さを知る上で大切なのは、とあるパーティでの事故。
酔っ払ったワイアットは、4階の窓から転落して下半身不随となる大怪我を負います。(当時の私は“2階”と聞いていたが、Wikipediaによると“4階”。)
以降、ドラマーとしては活動出来なくなりますが、ここからソングライターやボーカリストとして彼の本領が発揮されます。

ハット・フィールド・アンド・ザ・ノースの1stアルバム(1973)へのゲスト参加の後、自身のソロ活動が本格的にスタートします。
冒頭ご紹介した「ロックボトム」(1974/当時の邦題は“白日夢”)は、事故後初めてリリースしたソロアルバムです。
この音楽が「ロック」というカテゴリーに入るのかどうかは分かりませんが、YouTubeで全曲(約40分)お聴きになれますので、どうぞご判断ください。

注目すべきはその声質。こんなボーカリスト、他にいますか?
これだけでも、目標を一か所に定めて研鑽を積むタイプの音楽家たちとは、対極にあることがご理解頂けると思います。

ワイアットは、2014年リリースの「ディファレント・エヴリ・タイム」に合わせて、音楽活動終了の宣言をしました。
そのジャケットにある、濃い髭に覆われたワイアットは69歳。
これを見た時は「あ~歳取ったなぁ」と感じましたが、私自身あと数年で到達します。

私の音楽人生において、とても大切なミュージシャンをご紹介させて頂きました。

= 2022/08/06 杜哲也 =


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