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【第19回/歩く喜び】

歩くことが好きです。
特に、知らない町や初めての道を歩くのが好きです。
ささやかな解放感に浸る時間、とでも言いましょうか。

多くの現代人は、日頃、様々な場面でそれ相応の役割を演じていることと思います。
私は、歩いている時に、それらのしがらみをほんの少しだけ解いてもらえたような、小さな幸せを感じます。
ですから、その町の空気に身を預け、ゆっくりと楽しんで歩きます。

知らない町を一人で歩いていると、物の見方が変わることがあります。
様々な評価や判断というものが、知らず知らず既製の力関係によって決まっているからだと思っています。
万有引力のような科学の法則でもない限り、立場が変われば発言や決断は変わるもの。
歩いていると、日頃の自分の判断が如何に一方的なものであるか、反省させられます。

太陽や月を仰ぎながら…。
オフィスや住宅を見ながら…。
その時手にしたわずかな時間を、自分の足で刻んで確認します。
電車や車を使わず、自分の力で我が身を前へ進ませる喜び。
歩いて、歩いて、また、日常に戻ります。

今年も春が近づきました。
これからの季節、ますます歩くのが楽しみです。

2012/03/01 杜哲也