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【第126回/配信ライブ初体験の記】

初体験とは言っても、演じ手、としてではなく、客、としてのお話です。

お目当てのアーティストは、世界的に活躍する女性ジャズ・ピアニスト。
有難いことに、日本に戻ってくるたび私の経営するスタジオを使って頂いており、もう15年くらい経つでしょうか。

お帰りの際、日本滞在中のご出演予定をしばしば頂くのですが、「今回のブルーノートは生配信もありますから是非…」とのこと。
その日は既に2日後でしたが、奇跡的にスケジュールも大丈夫。
以前から体験したかった「生配信でライブ」を体験するには、正に絶好のシチュエーションとなりました。

2020年は、多くのミュージシャンが、活動の場をネットに求め始めました。
そんな中、心の何処かで「音楽動画を観るのと、一体何が違うんだろう…」と、いぶかしく思っていた私は完全に裏切られます。

開演時間が近づいてくると、既にワクワク感が始まっている自分に気が付きます。
それは、中学生の私が武道館までポール・サイモンを観に行く日とダブります。
九段下駅で下車してから、夜の都心を武道館まで歩くあの心理が、今、画面を通じて開演を待っている自分の中に間違いなくありました。

PC操作への不安は、中学生が夜間一人で外出する不安と似ています。
何事も、「初めて」というのは不安なものなのです。
それを解消するのは、客サイドの問題でもありますが、提供するアーティスト側の問題でもあります。

楽しみにしているファンの人たちのために、そして、音楽文化の灯を消さないために、「今出来ること」に対して最大限のエネルギーを費やして、良質な、それでいて気取らない、このピアニストのような音楽パワーを持ち続けたい…と強く感じた夜になりました。

= 2020/12/16 杜哲也 =



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