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【第127回/グッドバイ・ポーク・パイ・ハット】
ご存じ、ジャズ・ベースの巨人チャールズ・ミンガスが、1959年に亡くなったレスター・ヤングに捧げたバラードで、同年リリースの「ミンガス Ah Um」に収録されています。
レスター・ヤングは、あのチャーリー・パーカーも目標としたサックス奏者で、「ポーク・パイ・ハット」は彼のトレードマークだった鍔広帽子のことです。
そして私にとっては、長年にわたる「懸案の曲」。
まだ1回も演奏したことがありません。
先日、Spotifyで久しぶりにこの曲を聴いた後、無性に弾いてみたくなりました。…いざ、初トライ。
弾いてみると、この曲が12小節ブルースだったことにびっくり。
う~ん、聴いているだけでは分かりませんでした。
冒頭は2小節反復で始まる分かり易いものですが、7小節目から始まるⅥ7→Ⅱ7の進行には驚かされます。
10小節目と12小節目に印象的な決めフレーズを置くまとめ方も、ちょっと他に類のない構成。
上下に大きく動く器楽的なペンタトニック・メロディは、その後歌詞を付けて歌うシンガーが何人も現れていることからも分かるように、十分に歌唱欲をそそられるものです。
そして、終始2拍ずつで交代していくコードが作る怪しげな空気感は、正にこの曲最大の魅力になっています。
ちなみに私が初めて聴いたのは高校1年の時で、ジェフ・ベックによる演奏。
数年後、ジョニ・ミッチェルの「ミンガス」で再会し、ミンガス本人のテイクを聴いたのは二十歳を超えていたと思います。
今回、Spotifyで曲名検索すると、ペンタングル、ローランド・カーク、ラルフ・タウナー、ジョン・マクラフリン…などなど、無数の「グッドバイ・ポーク・パイ・ハット」が次々と試聴出来ることにも感動。
凄い時代だな…と改めて思いつつ、最後に譜面のことを書きます。
不思議なことに、高島慶司さんの赤本青本、納浩一さんの黒本、AZUMAの三種、いずれも非掲載で、主なスタンダード曲集で掲載されているのは、Real Bookのみ。
しかも、ミンガスの演奏とは異なるキー、異なるメロディ(…単なるミスプリ?)で出版されており、曲の普及度から考えるとやや不思議な印象です。
譜面を大切にするクラシック音楽との乖離は、今後ますます広がる予感がしましたし、CD(LP)や放送が主導的な役割を果たしてきた大衆音楽自体も、大きな曲がり角に来ていることを実感しました。
= 2021/01/20 杜哲也 =
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