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【第135回/ワン・ノート・サンバ】

私が好きな作曲家の話をする時、B.バカラック、H.マンシーニ、D.エリントン、M.ルグラン…などと並んで絶対に外せないのが、アントニオ・カルロス・ジョビン。
今回ご紹介する「ワン・ノート・サンバ」は、有名な「デサフィナード」や「ノー・モア・ブルース」のような凝った作りではないものの、シンプルな中にセンスが光る佳曲で、長年に渡り演奏させて頂いております。

タイトルの通り、1つの音だけを歌い続ける曲です。
音は1つでも、言葉と一体となって作り出される心地好いリズムが魅力的です。
動かないメロディを盛り立てるのは、半音下行を繰り返すコード進行。
そしてサビでは一転して、じっとしていたメロディが上下に目まぐるしく動き回ります。
転調が繰り返された後に再現部となり、ラストに軽くキメ事を置いて終わるこの曲は、YouTubeにも沢山の演奏が出ています。

私にとってこの曲の面白さは、何と言っても、メロディが「ワン・ノート」であることでした。
そして、メロディが動かなくても、コード進行でここまで色彩感を作れること。
対照的に、激しい動きを見せるサビ。
曲の最後で強調される「ワン・ノート」の、リズム的な面白さ。
この曲を演奏する時は、いつも、このような音楽面のことだけを考えていました。

お恥ずかしい話ですが、先日初めて、この曲の歌詞をじっくりと見る機会がありました。
「ワン・ノート」とは、なんと、愛する人のことでした!
とても素敵な内容で、ご紹介したくなった次第です。

♪これは、「ワン・ノート」で出来ているささやかなサンバ。
♪時々出てくる別の音は一過性のもので、最後に戻るのはいつもあなた。
♪沢山喋る人や様々な音階を弾く人、結局心には何も残らない。
♪私には、「ワン・ノート」、あなたがいれば幸せ。

これでやっと、この曲を演奏する資格を獲得した気持ちです。

= 2021/09/02 杜哲也 =


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