第176回/ウクレレの話
2019年も暮れようとする頃に、この楽器を始めました。
日頃より親しくさせて頂いているウクレレ奏者から、超素敵な楽器を譲って頂けたのです。
その楽器の内部には、製作者名と共にその奏者の似顔絵が施されており、初心者には贅沢過ぎる逸品であることはすぐに分かりました。
プライベートで新しい楽器を手にするのは、数十年ぶりのこと。
年齢から考えると、そう上達する見込みもないため、逆に「大変なことになってしまった…」と、恐る恐る弾き始めたのを覚えています。
私は、調弦の仕方さえこの時に初めて知りました。
一定方向に向かって高くなるとか低くなる、ということはなく、高くなったり低くなったりします。
更にはその幅も、5度・3度・4度とバラバラです。
前述のウクレレ奏者によると、「メロディを弾くことはあまり想定されてない」上に、「この調弦によってウクレレ特有の頼りない優しさが生まれる」とのことでした。
楽器を手にしてから知ったことは、まだあります。
ウクレレには、ソプラノ、コンサート、テナー、バリトン、の4種類がある…ということ。
これはリコーダーと似ている状況ですが、リコーダーほど明確な大きさの差がある訳ではありませんし、バリトン以外は調弦も同じです。
無頓着に弾いているため、自分の楽器がテナーであることを知ったのは、相応の年月が経過してからでした。
私がこの楽器を手にした直後、世界はコロナに染まって、生演奏のない年月を経験します。
あのステイホームの期間、自宅で楽器を始める人は多かったようで、ウクレレもかなり売れ行きが良かった…と聞いています。
その「見知らぬ同期生たち」と同様、満5年の歳月が経過した今、明らかに私の生活の一翼を担う存在になりました。
西洋楽器の厳格な響きに慣れてしまった耳にとっては、音色自体が愛おしいことに加え、この楽器に集まる人たちのソサイエティには、バイオリンやピアノでコンクールや受験を目指すような空気とは真逆の、ほのぼのとしたものが感じられます。
音楽の果たす本来の役割、その一面を間違いなく背負う楽器と出会えて、その楽器を愛する人たちと共に生きる…、これぞ究極の贅沢であることは間違いありません。
= 2025/02/05 杜哲也 =
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